目次
初めて解ったこと
貪欲な誘い
「体の関係だけなら良いよ」
真っ赤な顔で好きだと告白してきた秋に、オレはそう応えた。
「…ありがとう」
40人弱しか入らない無人の講義室で、彼女の嬉しそうとも泣きそうとも取れる声は、やけに大きく響いた。それから二人の関係ははじまった…
今日の秋はいつもと違って積極的だった。
「まだセックスしたい」
1,2年、体の関係を続けた中で、彼女がそんな我が儘を言うのは初めてだった。
不思議な事に、必死な秋を前に億劫な気持ちはなく、寧ろ恥を忍ぶ姿が見たいという悪戯心が芽生えた。
「じゃあ、オレをその気にさせてよ」
部屋を出ようとした踵を返し、ベッドサイドに脚を投げ出して座った。
口角を上げて意地の悪い笑みをするオレの股座に、裸のまま秋は屈み込み、ジーパンのファスナーを下し、下着の中から、皮を被った肉の塊を取り出し、パクリと口一杯に頬張った。
ローションを付けるように、彼女は舌全体で舐め回し、咀嚼液を塗り付ける。
一度、悦楽の頂点に上り詰めて欲望を吐き尽くしたはずなのに、徐々に熱さを孕んで芯を持ち、塊は貪欲な肉棒に姿を変えつつある。
挿入できる硬さにするため、秋は自らの咥内を膣に見立て、亀頭部から半分くらいの所まで唇を上下に滑らせた。
「っ、」
不規則に彼女の唇や舌に掠められる度、性感を刺激され、冷静になっていた気分が再び昂りだす。
愛しくて堪らないと言うような、うっとりした瞳や口を窄めてできた頬の小さな窪みが、オレの理性を大きく揺さぶった。
「はぁっ、」
包皮を退かして顔を出し、分厚くなっている肉傘と淫茎の境目を上下の唇で触れられ、 意図せずも湿度の高い息を溢した。
秋は尖らせた舌先で、鈴口の小さな吹き出し口に向かう、裏筋をなぞるように辿る。
「はっ、」
腹筋に力を入れ、襲いかかる濃蜜な快感に抗い、何とか自制心を保つ。そんなオレを嘲笑うように、秋は射精口を突つくのも忘れない。
心が興奮を抑制する代わりに、抑え切れない先走りがゆっくり零れる。そんな青臭い欲液すらも、秋は眉間に皺を寄せる事なく、甘い蜜でも啜るように、残さず舐め取る。
「もうっ、いい」
これ以上されたらイってしまいそうで、彼女の頭を押し返しながら呟いた。秋の口腔から解放された淫茎は、ぴくぴくと青筋を立てなが、完全に天井を向いた。
「誘ってきたの秋だから、動いてよ」
潤んでトロンとした瞳の彼女に言いながら、ベッドヘッドの小さな籠に入っている避妊具を手にし、サッと被せてから、フカフカの布団に横になった。
2度目の交わり
蛍光灯の灯りに曝された昂りは、秋の口腔液に濡れていて、妖美な光を放っていた。そんなオレの上に彼女は股がり、ゆっくりと腰を落としていく。
「あぁぁっ、」
先端が秋の下半身に被われると、彼女の唇から濡れた吐息混じりの声が漏れ、悦楽を巡らせる。
まださっきまでのセックスの余韻が残っているせいか、避妊具に覆われていても、秋の中は茹だるように熱く、まだ滑りを帯びているのが感じられた。
「んんんっ…!」
喉の奥で喘ぐ彼女の眉間に、フェラチオの時には見られなかった、濃い皺が現れる。
「エロい顔して。そんなに良い?オレのは」
涙目で、オレにすがるような眼差しを向け、性的な悦びに悶絶する秋はエロチックで、からかって羞恥心を与えて余裕ぶって理性を保つのが限界だった。
「遥くんの太くて硬くて、すごく悦い」
いつもなら羞恥に負けて、何も言わないクセに、どうして今日はそんなに素直なんだ?
しかし、率直で卑猥なその言葉は、理性が風前の灯であるオレにとって、最高の口説き文句だった。
「抜いたら後ろ向いてよつん這いになって」
息を吹き掛けられて消えた蝋燭の火のように、オレの理性も呆気なく消えた。
オレの言葉に、疑問と不安の表情を混ぜながらも言う通りに、秋はぎこちなくオレにお尻を向けてきた。
殻を剥いた茹で卵のように、色白で傷1つない彼女の尻は滑らかで艶かしく、倒錯感と背徳感で一杯になった。
でも、それらはオレを興奮させる要素にしかならなかった。
起き上がって細い腰を掴み、興奮冷めやらない肉棒を、この世に2つとない潤滑油でトロトロに蕩ける、蜜処を探るように這わせる。
「あうぅっ」
這わせて直ぐに目的の場所に当たり、予測不可能な快感により、色欲に染まった短い悲鳴と共に、彼女の下肢が悶えた。
当てている其処は、騎乗位の時より湿りと熱を帯びていて、腰を進めると、難なくオレの欲を受け入れていく。
「あぁぁんっ…!」
奥深くへ向かって咥え込ますと、 鼻にかかった色っぽい声が秋の唇から溢れる。
ぴったりゴムが密着した、分厚く出っ張る部分が濡れた肉を掠めた時に感じる、オレの官能と彼女の官能がリンクした瞬間だった。
1番太い真ん中の部分まで飲み込ませたところで、秋の肉壁が馴染むのを待つ事なく、ゆるゆると腰を動かし突き上げた。
「あっ、当たってるっ…遥くんのが、私の弱い、ところに…んっ、」
既に1度、快楽に味をしめた其処は、まだその余韻を残してて、小さな刺激も鋭敏に感じ取っては、秋の脳天から足の先までを甘く痺れさせた。
彼女に痛みが伴ってない事が解ったオレは、腰を打ち付けるようにして、残りの部分を全て秋の中に捩じ込んだ。
「あぁぁぁっ!奥、奥に、遥くんの熱いのがっ…!」
台本にでも書かれているような嘘臭い台詞。そう思うのに、女の悦びに喘ぐ秋の唇から吐かれたその言葉は、妙に現実味を帯びていて、不覚にもまたドキッとさせられた。
速くもない遅くもない速度、強くもない弱くもない力加減の律動で、彼女の奥深くで燻る官能を呼び寄せる。
今以上の愉悦を求め、グチュグチュとくぐもった音を立てて、奥で秋の分泌液を掻き混ぜた。
「あ、あ、…ああんっ、…遥、くんっ」
オレが動くリズムに合わせて、彼女も短く悲鳴を上げながら、腰を高く上げて猫の伸びのようなポーズになった。
正常位と違って脚が邪魔にならない後背位は、秋の最奥まで正確に当たり、オレにとってはベストな体位だった。
しかし、それはオレだけじゃなかった。
子鹿のようにプルプル振るえる、立てられた細い脚。枕カバーに皺を作るほど強く握られた細い指先。
正常位以上の悦楽を感じているのは秋も同じだった。
「どうされたい?エッチな秋」
言いながら、腰を掴んでいる手を片方は尻、片方は彼女の上半身の膨らみに伸ばす。
尻は指の跡が付くくらいぎゅっと掴んで、胸は柔肉を掴みながら、硬くなっている木苺程の大きさの乳頭を指先でクリクリして、より濃蜜な悦楽をちらつかせた。
「もっと、いっぱい、突いてぇっ…!」
オレの意地悪に純粋に乗ってくれる、秋の姿を目の当たりさせられる事何回か。
本当にオレの中から余裕が消え去った。
秋が欲しい。
今考えているのはそれだけだった。
静かな目覚め
「望み通り、にっ…!」
彼女の腰に手を戻し、最奥まで挿入していた自身をギリギリまで抜いてから全てを埋め込み、貫くような勢いで奥を突いた。
「ひゃぁぁんっ…!」
もっと情欲に溺れる秋を見たくて、溜まり溜まった熱を出したくて、ガツガツと、餓えた獣のような律動を再開させた。
「悦い、悦いよぉ、遥くんっ…!」
その言葉以外知らないように、オレの名前と快楽を訴える彼女も、発情した動物のようだった。
絡み付いてくる肉がより一層湿りを帯びたのか、グチュングチュンと結合部同士が擦れ合う音も、部屋中に響いているかと思うほど鮮明になって、滑りも良くなる。
秋と繋がっている部分から、肢体、脳に至るまで血流が促進して体温が上昇し、酩酊にも似た感覚になった。
もう、もうイケる。
そう確信したオレは、ただでさえ速い律動をまた速めて、今持っているエネルギーを全て注ぎ込んで、何度も何度も強く腰を打ち付けた。
「あっ、熱い…子宮が、焼けちゃうっ…!」
泣きそうにも聞こえる、トーンが安定しない乱れた声でそう言われた瞬間、秋の濡れ肉がオレの昂りを締め付ける。
頂点を目指し、うねる彼女の尻をぺちんと軽く叩くと、僅かな痛みも快楽に変わって、よりオレのを締め付ける。
「秋っ…!」
「あぁっ、あぁっ、あぁんっ…ああっ……あっ!」
不規則で甲高い喘ぎを聞いた後、際限なく溢れ出す粘着質な液体が、薄いゴムの先端部一杯に溜まっていく。
いつもは数十秒で終わるその感覚が、今は数分のように感じた。
「はぁっ、はぁっ、…っ」
浅い呼吸を繰り返したまま、秋は自力でオレのを抜き、力尽きたように体勢を崩し、布団に体を預けた。
「はぁ、」
長く緩やかなオーガズムを感じ切ったオレは、コンドームを外してその辺に投げ捨て、後処理をして下半身の衣類を正した。
そして、オレも布団に崩れ落ちた。
視界が真っ暗になって、そこからの記憶は無かった。
次にオレが目を覚ましたのは早朝だった。
"先に帰るね"
既に秋の姿はなく、そんな置き手紙だけがオレの目覚めを待っていた。