【神性喜劇】 日本編

醜い身体に生まれて

イザナギとイザナミは、それからも山の気を浴びたセックスで、大山津見神(オオヤマツミノカミ)という山の神を生み、屋根を葺いた萱(かや)を敷き詰めた寝床でのセックスで、鹿屋野比売神(カヤノヒメノカミ)という草の神を生みました。

このカヤノヒメは手も足もない蛇のような身体で、顔には口しかありません。そして、カヤノヒメは、他の神たちと自分とが違う姿をしていることに気がついてしまいました。

「ああ、どうしてわたしだけみんなと違う醜い姿なのかしら。」カヤノヒメはそれを恥ずかしく思って、誰にも会わないようにとひっそりと山奥に隠れてしまいました。

お前は自分を知らない

しかし、そこにいたのが山の神オオヤマツミでした。

「まあ、お兄様…、どうか、わたしを見ないで。」

「妹よ、どうしてそんなことを言う。」

「だって、わたしはこんなに醜いのですもの。」

「醜い? どこが?」

「だって、お父様ともお母様とも全然似てませんわ。まるで蛇のよう。」

「そんなことを気にしているのか。お前以上に変わった姿の神もたくさんいるというのに。」

「そんな慰めを言われても…。」

「慰めではない。事実だ。四つの顔をもった神すら生まれている。しかし、そんなことは、はっきり言ってどうでもよい。」

オオヤマツミはそう言ってカヤノヒメの身体を優しくなでました。

「お前に兄としていいことを教えてやろう。これまで誰もお前の身体に触らなかったが、それはもったいないというものだ。」

カヤノヒメはオオヤマツミに触られて、なんだか不思議な気持ちになってきました。

「もったい…ない?」

「そう、お前は自分を知らなすぎる。しかし、そんなお前が愛しい。」

「愛しい? そんなこと…信じられませんわ。」

蛇の身体は感じる身体

「では、これでどうだ。」

オオヤマツミは自分も蛇の姿に変身しました。蛇の姿になったオオヤマツミはカヤノヒメの身体にぬめぬめとからみつきました。

「お兄様、何を…? あ…こ、これは…。」

カヤノヒメはさっきから感じていた不思議な気持ちがいっそう高まってくるのを感じました。

「わたし…、いったい…。」

カヤノヒメの全身から粘液がじんわりと湧き出してきました。

「どうだ。わかっただろう。お前は全身が性器なのだ。」

オオヤマツミはカヤノヒメに巻き付いて締め付けたり緩めたりしました。

「あ…、あ…。」

「お前の身体はこうして感じるためにあるのだ。」

「ああ…、ああ…。」

オオヤマツミはこんどは舌をチロチロと出してカヤノヒメの身体をなめ回しました。

「はぁ…はぁ…はぁ…。」

「どうだ。」

「いい…、いい…。」

カヤノヒメは快感に打ち震えながらのたうち回りました。

ひとつの身体に解け合って

「まだまだ…こんなものではない。今度は内側から…。」

オオヤマツミはそう言って、カヤノヒメの口から身体の中へ入っていきました。

カヤノヒメは自分の身体が太く固いモノで満たされているのを感じました。オオヤマツミも今は全身が性器になっているのです。内臓をはじめ、全身の粘膜がなめずり回されるような快感。カヤノヒメもオオヤマツミも、至福の喜びを感じました。

「うむ…、いい、いいぞ。こんなにも…心地よく…包んでくれるとは…。」

カヤノヒメは、自分の中に入ってきた兄がビクンビクンと震えるのを感じて、自分も身体がどうしようもなく震えてくるのを感じました。

「ああ、お兄様! お兄様! わたし…、地を這い回ることしか…できないと思っていたのに…、天に…、天に昇っていきそう!」

「そうだよ。お前はおれと共に天に昇ることができるのだ。」

「んん! ああ! あああ!」

カヤノヒメはもう泣き叫けばんばかりです。

「妹よ、この兄の精を受けておくれ。」

オオヤマツミとカヤノヒメの身体は解け合い、一つになりました。オオヤマツミの放出した精がカヤノヒメの全身を駆けめぐります。女性のオーガズムは特に、ある意味内臓で感じている快楽とも言えます。

「ああああああ!」

カヤノヒメの感じたすさまじい快感をオオヤマツミも共に感じました。

「すばらしい! 思った通りだ! おおおおおおお!」

すさまじい山鳴りが周囲に響き渡りました。静かになった後、二人は元の姿に戻りました。

「どうだ。わかっただろう。自分のすばらしさが。」

「え、ええ…。」

「それにしても、お前と一体となってわかったが、女の身体とはいいものだな。おれも女になるとするかな。」

「お、お兄様!」

「心配するな。お前と一緒の時は男でいるよ。」

「お兄様…。」

ヘビの交尾は24時間以上かけてお互いの身体を絡め、しめ縄のような状態で何日間も合体したまま過ごします。人間以上に情熱的なセックスを行なっているとも言えますね。

ちなみにしめ縄の由来は、須佐之雄命(スサノオノミコト)と天照大神(アマテラスオオミカミ)が関係しているのだとか。アマテラスオオミカミが2度と隠れられないように、しめ縄で天の岩戸を縛った神話が元となっていると言われています。

これらの話については、また後ほど詳しく語ることになるでしょう。

また、ヘビは誘惑の象徴。フロイトの精神分析でも、蛇は男根の象徴です。ギリシャ神話では、エデンの園でエバに禁断のリンゴをとるように誘惑したのはヘビと言われています。

オオヤマツミとカヤノヒメのその後

このオオヤマツミとカヤノヒメからは8人の子どもが生まれました。

  • 土の神として、天之狭土神(アメノサヅチノカミ)と国之狭土神(クニノサヅチノカミ)
  • 霧の神として、天之狭霧神(アメノサギリノカミ)と国之狭霧神(クニノサギリノカミ)
  • 暗闇の神として、天之闇戸神(アメノクラドノカミ)と国之闇戸神(クニノクラドノカミ)
  • 迷子の神として、大戸惑子神(オホトマトヒコノカミ)大戸惑女神(オホトマトヒメノカミ)

カヤノヒメの別名は野椎神(ノヅチノカミ)と言います。

野山を這いずり回るその姿を人間たちは不気味に思いました。鎌倉時代の説話『沙石集』や妖怪を描いた江戸時代の画集では、ノヅチのことが妖怪として描かれています。

その後、ツチノコという不思議な生き物のことが話題になりましたが、これもノヅチの仲間かもしれません。

そして、オオヤマツミはカヤノヒメ以外にもいろいろな妻を持ち、ここに挙げた以外にも多くの子どもを設けていきます。後に、八岐大蛇の話で登場する足名椎(アシナズチ)と手名椎(テナズチ)の夫婦はこのオオヤマツミの子どもです。

また、天孫降臨の話でニニギノミコトが一目惚れしたコノハナノサクヤヒメもこのオオヤマツミの娘です。こちらも、また後に詳しく語ることになります。

オオヤマツミはその後、女になったようです。というのも山の神は女だと言われていますから。




【神 喜劇】 日本編 Vol.15

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